チェコが祝日ということで,ウィーンへと足を伸ばすことにしたのは前日に書いた通り。でも,数多ある近隣諸国の都市の中で何故にウィーンなのか?。
ひとつは世界で最も美しいと言われる図書館の存在。昨日訪れたプラハのストラホフ修道院と比較する意味でも絶対に見ておかねばならぬ。
そしてもうひとつのきっかけは二冊の本。都築響一『珍世界紀行』とゲルハルト・ロート(Gerhard Roth)『ウィーンの内部への旅』(『Eine Reise in das Innere von Wien』)。正直,全く関心外の都市だったので,クラシックやオペラなどという書いてて恥ずかしくなるイメージしか抱いていなかったウィーン。しかしその懐には底知れぬ暗部(と同時に笑いも少々)を抱いていることを教えてもらいました。
7:30にはホテルをチェックアウト,トラムに乗ってまずは「病理・解剖学博物館(Narrenturm)」へ。ウィーン大学構内にあるこの博物館は,バームクーヘンのように内部をくりぬいた円柱形の建物で,元は精神異常者を収容する療養所。誰が呼んだか,その通称「愚者の塔」(訳し方は色々あるだろうけど,「Narrenturm」というドイツ語がそもそもそういう意味)。
中に入るとそこはかとなく甘い香り。これはやっぱり標本を浸したホルマリン?。期待と不安が入り混ぜになりながら歩を進めると出てくる出てくる。香りの元である各種器官の納まった硝子瓶,古い医療器具(牛若丸『funktion』を思い出す),極端なまでにせむしな骨格標本,各種性病にかかった男女性器の模型(梅毒で鼻がもげた顔の模型含む)…。更にはそんな看板に偽り無しな展示に混じって,この建物の図面を用いたコラージュやドローイング,そしてなぜか錬金術師のヴンダーカマーなんてものも(確かに「病理・解剖学」のルーツとして辿れないこともないんだろうけど…。それにしてはあまりにも唐突)。
しかし最も目を惹かれたのは水頭症で頭部が異常に肥大した子供の骨格標本。常識では考えられないその大きさに驚いたのはもちろんだけど,それ以上にそんなアンバランスなプロポーションで,見る者にある種の恐れを抱かせる姿でありながらも可愛ささえ感じさせる全体のポージングがツボにはまる(画像は後に記す絵葉書から)。なんで右足のつま先を上げてんのよ?。っつーか,それ,狙ってやってるでしょ?。
そうやって幾つかの小部屋を巡回している内に,突然自分の現在地がわからなくなる…。冷静に建物の平面図を思い浮かべると,バームクーヘンの内周に沿って回廊があり,そこから外周に向かって放射状に幾つも小部屋がある。つまり回廊から小部屋,そこを出て回廊を進み隣の小部屋という反復運動を繰り返した結果の方向感覚喪失。この展示物にこの建築の構造は完璧。ヘタするとバベルの塔のように回廊がスロープになっていて,このまま永遠に登り続けて展示が終わらないような悪夢まで見てしまいそう。
しかし現実は一周したら無事入り口に戻って一安心。それでも疲労感(もちろん満足感も計り知れないけど)は拭えず,バームクーヘンの内部である中庭へ出て一休み。と思ったものの,そこがまた目を見張る空間。剥げ落ちた壁,鉄格子のはまった窓,鉄の扉,そして切り取られた空…。かつてここで生活をおくっていた方々がこの空を見て何を思ったのか?。そんなことにふと想いを馳せる…。
気がつけば2時間近くも滞在。次の予定も詰まっているので最後のミュージアムショップ(と言っても非常に小さいもの)へ。パンフレット,例の頭部肥大のお子様骨格標本の絵葉書,そして頭蓋骨がプリントされたマッチなどを購入。レジを打つのは白衣姿の好々爺。もしかしたら立派な教授様なのかも…。
ちなみにここの開館時間はかなり変則的で,水曜15~18時,木曜8~11時,そして毎月第一土曜の10~13時のみ。今日は木曜,ということで朝イチでいきなり訪れたというわけでした。訪問を計画される際は御注意を。