Narrenturmを後にし,キャンパス内を抜けて大通りへと出る門へ。するとそのすぐ隣が次の目的地である「医学史博物館(Josephinum)」。
ここの訪問目的は解剖学用人体蝋標本の鑑賞。この手の展示の代表格と言えば,まずはフィレンツェの「La Specola」が挙げられると思いますが,何のウィーンだって負けてない。と言うか,ここの蝋標本を製作したのは当の「La Specola」の工房。時の神聖ローマ皇帝ヨーゼフ2世(ちなみに昨日のNarrenturmを設立したのもこの人)が「La Specola」の蝋標本に感銘を受け,同じようなものをウィーンにも欲しいということでオーダーしたとか。しかも収蔵数で言ったらこっちのほうが多いってんだから,そりゃ胸の期待も高まるってもんです。
その他,より詳しいことは以下の書籍をご覧いただければ。
・『世界珍紀行』 都築響一
・『Anatomie als Kunst』 Manfred Skopec, Helmut Groger, Alexander Koller
博物館への入り口は左右に棟が広がる建物の右翼側。そこから階段を登ると,まずは施設名の通り,医学史に関する展示から。各年代の医療機器,世界で初めて切除・摘出された胃等々。
一回りしたら階段の踊り場を挟んで向かい側へ。開けようとしたその扉には「Wax Models」の文字。いよいよのご対面。
入るといきなり仰向けに横たわる開腹された女性の裸身。頭髪は人の本物を植毛,首には真珠の首飾り(こちらはイミテーションっぽい)。部屋を見渡すと壁に沿って人体の各部位毎に詳細な標本がびっしり(ちなみに解剖学用なので,全て実物大で製作されています)。標本それ自体はもちろん見応え十二分なんだけど,更にそれらが収められている飴色の木枠にガラスがはめ込まれたケースも美しい。また壁沿いの標本は全て,鑑賞しやすいように斜め上を向いた形。
次の部屋へと移動すると,今度は皮膚が剥ぎ取られ筋組織の上に血管が縦横無尽に巡っている男性の全身像。でも,なんかポージングが不自然。横向きで片肘をつき,もう片方の腕は上げられ,そして視線は空を見つめている(後で調べたら,当時それと同じ解剖画があったらしい)。しかもその標本の真ん前にはポツンと一脚の椅子が。これはやっぱり座れってことだよなということで,しばし腰を下ろして対話。お前も皮一枚剥げばこんな格好してんだぜ。っつーか,俺がお前でお前が俺なんだよと言われているような…。
最も奥の部屋にはレイヤーのように内部組織の剥ぎ具合が異なる6体の男性全身モデル。何に驚いたって睾丸と体幹との接合位置。腰骨の最上部辺りからぶら下がってんのね。
結局,全部で6室。そりゃもう言うことなし。1日中,ここと「Narrentrum」を行ったり来たりしていたい…。
ムービーも見つけたので,この手のものに耐性のある方はどうぞ。
・「Vienna : Josephinum, anatomical wax figures」
博物館を後にしてリング内へ,そこから更に中心街へと歩を進める。ここで時計を見るともうすぐ昼,濃密な午前を過ごしたのでここらでひとまず休憩。そこで向かったのはベタにDEMEL。当たり前だけど原宿店とは比べ物にならない威厳漂う店内。気圧されて正直,落ち着かねぇ…。奥のカフェ,若干うつむき加減でザッハトルテをコーヒーで流し込む。
それでもなんとか店内を見回すと,店頭販売している各種商品のパッケージデザインに視線を奪われる。幾つかの有名どころ(猫ベロとか兎とか)を除けばそのほとんどが初めて眼にしたもので,そのどれもがいちいち素晴らしい。なかでもオリエンタルテイストのモノにグッときて,中身は全く意に介さずただ箱が欲しいというだけで幾つか購入。画像は竹を模したバンブーチョコ。
パッケージを眺めすぎて気がつきゃ結構いい時間。ということで次の目的地「シュテファン大聖堂(Stepahnsdom)」へ。目指すはその地下。ハプスブルグ家歴代皇帝の内臓(心臓だけは別の場所に安置)を納めた壺,そしてコストニツェ同様,ペストによって命を失った人々の骨々がこれでもかと置かれているらしい。が,中に入るとちょうどミサの時間。詰め甘っ…。異教徒の身では当然立ち去るしか術は無く,残念ながら今回の旅では謁見すること叶わず。
気を取り直して次,アドルフ・クリシャニッツ(Adolf Krischanitz)の中央郵便本局。アーチ型の列柱が並ぶ壁沿いに備え付けられたカウンターが美しい…。はずが,その姿はどこへやら,レイアウトが変更されていて壁沿いのカウンターは閉鎖され,その内側のオープンスペースに新しいカウンターが無造作に並べられている。改修などによる何らかの臨時的措置なのか,それとも恒常的にこの平面プランになってしまったのか,往時の面影全く無しでガッカリ…。
更に悪いことは続く。よほど落胆したのか,すぐ近くに建つ次の訪問予定地,オットー・ヴァーグナー(Otto Wagner)の中央郵便貯金局(Postsparkasse)を素通り。いやほんと,完全に忘れてた…。
次なる目的地へ向かうためトラムに乗車。ぼんやりと外を眺めていると,露出度の高いコスチュームで銃を構えるブロンドの女性のポスターがやたら貼られていることに気が付く。十数分後,下車した停留所にもあったのでよく見ると,そこには『Barbarella』の文字。この姿でこのタイトル,何,いつの間にドリュー・バリモアのリメイク版が完成したのよと思って更に見入ると,これがウィーンで上演中のミュージカル。んー,確かにあの破天荒なストーリーはミュージカルに適していそうな気がしなくも。しかもクレジットの音楽監督にはDave Stewart(ex.Eurythmics)なんて名前も(本当はDuranDuranにお願いしたいところだけど),話のタネとして見ない手はない。でもやっぱり時間がない。あぁ,もう1泊できたら…。