桑港 050306
訳あってサンフランシスコ。
まさか自分がアメリカ西海岸を訪れる日が来ようとは…。雲ひとつない空,吹き抜ける爽やかな風,天気が良すぎて気が狂いそう…。
でもまぁ,来てしまったからには仕方ない。例によって古本屋廻ったり,蚤の市を冷やかしたりと,何処に行ってもやる同じことを一通り。
9日にNHK FMで放送された面影ラッキーホールのライブ。
どうにも早く聴きたくて,録音してくれた日本某所へサンフランシスコからSkypeOutで電話し,それ越しで鑑賞。しかし録音媒体は今時それかよというカセットテープ。ハイテクなのかローテクなのか一体何なのか…。っつーか,コンピュータで放送を直に録音,そのファイルをネットで送ってもらえば済む話なのに(でも,こんなテクノロジーの無駄使い,実は嫌いじゃない。しかもSkypeOutだから1時間電話し続けても通話料は¥160)。
肝心のライブ自体は大満足。曲はもちろんだけど,まさか靖幸ちゃんの物真似弾き語りをやるとは!。こういう関心の連鎖があるから人生はおもしろいっす。
訳あってサンフランシスコ。
まさか自分がアメリカ西海岸を訪れる日が来ようとは…。雲ひとつない空,吹き抜ける爽やかな風,天気が良すぎて気が狂いそう…。
でもまぁ,来てしまったからには仕方ない。例によって古本屋廻ったり,蚤の市を冷やかしたりと,何処に行ってもやる同じことを一通り。
以前にも書いたように,南方は非常に苦手。だから自分が南の島を訪れる日が来ることなどは全く夢にも思わず,それ故にいざそこに降り立った時に何をしたらいいものかも皆目検討がつかず。しかし半強制的に足を運ばされたとはいえ,それなりの対価を得なければ割にあわん。で,そのうちのひとつが「無人島iPod」だったんだけど,その過程でもうひとつ,偶然にもはまったものが。
それは浜辺での貝殻探し。八重山の島々は珊瑚礁に囲まれているので,浜辺にはそれこそ無数に珊瑚や貝殻が転がっている(なかには浜辺自体がそれらで形成されているといってもいいくらいの所もあり)。それらの美しいことといったら。陽射しが無かったことも幸いし,時の経つのも忘れ,夢中になって拾いまくり。
貝殻と言えばまずは螺旋を描く幾何学的魅力。完全な形を保っているものはもちろんのこと,壊れて見えるその断面もまた素晴らしい。なかにはバベルの塔を想起させるものも。
また波に揉まれたことで白蝋化したかのように真白なものも美しい。色が抜け角が取れ,そして厚みも減り向こうが透けて見えるかのよう。更にその手触りはとてもなめらか。ふと,これと同じ質感の肌を持つ女性を妄想の中で思い浮かべてみたり。
そうこうしているうちに眼が肥えてきて,サイズの大きなものは大味すぎてイカンと満足できない体に。より小さく,より精緻なものを求めるべく,ついにはうつ伏せとなり砂浜から5cmと離れない至近距離から凝視。おぉ,これぞマイクロコスモス。これまでただの砂だと思っていたものが様々な形を見せ始める。2mm,3mmという体長で螺旋を描かれた日にゃぁそりゃもう…。
東京帰還後,それら収集物は一旦シャーレの中へ。大きさや種類で選別した後,それぞれは更に小さなシャーレの中に納まる予定。
その昔,「無人島レコード」という本がありました。
「もしあなたが無人島に行くことになり,そして1枚だけレコード(CDでもカセットでも可)を持っていくことができるとしたら何を選びますか?」という問いに名のある方々が回答を寄せたもの。読みどころは,どんな無人島を想定したかその想像力,そしてもちろんその1枚だけを選び出す個々人の選択眼,等々。
でもさ,持っていきたいものが複数あったら全部持っていけばいいじゃないっすか。レコードじゃ重いだろうけど,今ならばiPodがあるじゃないっすか。っつーか,そもそも実際にその1枚を持って本当に無人島へ行き聴いた人はいるんですか?(いたらゴメンナサイ)。
っつーことで,実行しました。「無人島レコード」ならぬ「無人島iPod」。10GBの第二世代iPodに詰め込めるだけ詰め込んで,石垣島から定期船で25分の小浜島,更にそこから渡し船に10分乗り,目的の無人島,カヤマ島へ。天候は曇り,強い陽射しもなく,個人的にも最高のコンディション(日光に弱い体質なもんで)。岩陰の砂浜にレジャーシートを敷き,仰向け大の字になって寝転がり。
さて,ここで今回のルール説明。
主要ポイントはふたつ。
ひとつめはiPodの10GBという容量制限。その大きさでは家MacのiTunesライブラリをそっくり入れることは不可能なので,何かしらのフィルタをかけて10GB分を選ぶ必要あり。
そこでふたつめ,島での再生方法。『無人島レコード』のように1枚のアルバムしか選べないのならともかく,せっかくのiPod,せっかくの膨大な曲数なので,神の選曲に身を委ねるのもおもしろいのではないかと。つまりアルバムやアーティスト単位に拘らず,全てシャッフルプレイで聴くことを選択。となると,ひとつめの10GBの容量制限も自分の手で音源を選ぶと無意識のうちにバイアスがかかったものになってしまいおもしろくない。そこでiTunesのスマートプレイリストで「再生回数が100回以下の曲から1000MB(=9.77GB)を上限にランダム選択」を条件に抽出(100回以上聴いた音源が無かったこと,またiPodには元々入っているデータ(インストーラの類)があり,10GB丸々だと入りきらないのでそれよりちょっと下げておいた)。
その結果,選ばれたのは1765曲,時間にして5日と5時間分。これに再生を開始するためのどうでもいい1曲をプラス(シャッフルプレイはそれを始めるにあたり,1曲目だけは人力で選ぶ必要があるので)。この1曲目は再生直後にすかさず飛ばし2曲目へ移行。そこからが本当のシャッフルプレイスタート。
以下,その再生リスト(並びにその時々の状況・感情)。
・Brian Eno : 『1/1』(from 『Ambient 1 Music for Airports』)
しょっぱなで演奏時間17分。心地良すぎていきなり眠くなる。
・David Bowie : 『New Killer Star』
ブッシュの顔がちらつきました。
・NHK AMラジオの英会話番組のエアチェック
通りかかった船に助けを求める時に必要ということですか?。
・岡村靖幸 : 『ミラクルジャンプ』
きたっ!。でも無人島でテンション上がるのがこんなにも虚しいとは…。
・David Sylvian & Robert Fripp : 『Every Colour You Are』
あんまり思い入れがなかったんで特になし。
・トニー谷 : 『あんたのお名前何ァんてェの』
これぞ神の選曲。無人島で誰に名前を訊くことあるんだよ。
・Manuel Göttsching : 『E2-E4』。
ここで来るかの60分超大作。気持ち良くて途中から完全に熟睡。目覚めて
時計を見ると,曲終了から確実に1時間経過。当然,その間の曲は不明。
・Neu! : 『Weissensee』
スローテンポでまたまた眠くなるが我慢。
・NHK AMラジオの英会話番組のエアチェック
最初とは別日の放送。でもくどい。しかも途中で飽きてしまい再び
眠りに…。その後,確実に数曲は記憶無し。
・戸川純 : 『Because the Night』
Patti Smithのカバー。眠気が一気に吹き飛ぶ。っつーか,どう考えても
南の島の浜辺で聴く曲じゃない…。
・Paul Bley : 『So Hard It Hurts』
ジャズ。全く事前知識無し。家のiTunesでも聴いたことがないかも…。
・Cex : 『Earth-Shaking Event』
曲そのものより,David Bowie『Heroes』をパクッたジャケが頭の中を
占有。誰も見てないのをいいことに,一人でその真似をしてみたり。
・渚十吾 : 『Wailing Wall』
Todd Rundgrenのトリビュートアルバムから。Paul Bley同様,未聴。
・The Greats : 『Rule Britannia』
フットボールアンセム。曲自体は全く記憶無し。が,大人数による掛け声
がこの場所で聴くには切ない。柄にも無くちょっと人恋しくなりかける。
・Tabla Beat Science : 『Audiomaze』
タブラ,気持ちいい!。一転,テンション上がる。
以上,島を離れるまでの約5時間の記録。
途中,寝てしまって何とも不完全なリストだけど,まぁやったことに意義があるってことで(っつーか,単に「無人島iPod」って言葉を使ってみたかっただけ)。想像していなかったのは,曲間の数秒に聴こえる波音の心地良さ。まるでSt.Giga(逆だよ逆)。無人島に行ったのなら人工音楽など聴かず,自然の音に耳を傾ければいいじゃないかという声もあるでしょうが,人工音楽の合間に耳にすることで逆にその存在を強く意識出来ましたよ。
ところで,5時間の再生じゃもちろんバッテリは切れなかったけれど,仮に数日(数ヶ月)過ごすことになったとしても,太陽光で充電できる周辺機器(例えばフォーカルの「Solio」)を持っていっとけば問題無し。さぁ,レッツトライ。
気がつきゃ,石垣島。
羽田-那覇が2時間30分もかかることも(CPH-KEFと30分しか違わないと考えるとその長さを実感),更に那覇-石垣が1時間ということも,そしてそもそも,日本列島の中における石垣島の位置関係も全く知らないままに到着。
っつーか,北に行けば行くほど生気に満ちる自分にとって,正直,南は忌み嫌う方角。調べたら石垣島はマルタ共和国よりも南(石垣島:北緯24度。マルタ:北緯36度(横浜と同じだったのかよ))。ってことは生涯最南端の地。観光客というよりも行者の心持ち…。
ザグレブからフランクフルト経由で帰国。
ドゥブロヴニクからはモスタル→サラエヴォ→ザクレブと北上。サラエヴォの景色にはさすがに色々と考えさせられたけど,それでもユーモアに溢れた表現を忘れていないところにとにかく惹かれる(『サラエボ旅行案内』のような)。今度はもっと余裕のある日程で再訪したい。
フランクフルトでは帰国便への乗り継ぎに4時間あったんで,久しぶりにPlaymobil魂に点火。さくっと入国してさくっとSバーンに乗ってさくっとvedesに行ってさくっとvedes100周年記念トラックの#4068を買って(希望小売価格39.99ユーロのところ特価19.99)さくっと空港に戻ってチェックイン。
これからこの半月を埋めるつもりではいるけれど,完成はいつになるのやら…。まぁ,ぼちぼちと。
ウィーン空港内のWireless LANより。
ここはコペンハーゲンのような認証も課金も無く,コンピュータの電源を入れたらすぐネットに繋がる素晴らしい所です(あ,もちろん無線LANカードは必要)。
で,プラハにいたわけですが,やってることは東京で休日にとる行動と何ら変わらず。古本屋行って,切手屋行って,骨董屋行って,オモチャ屋行って,美術館や博物館行って…。やっと骸骨教会も行くことが出来ました。
メメント・モリな旅も2/3が終了。
2時間後に憧れの城塞都市へ飛びます。
トラムの停留所からリングの外へ向かうと,シンメトリーで建つ巨大な建築ふたつ。目指すはその向かって左側,「美術史博物館(Kunsthistorisches Museum Wien)」(ちなみに右は自然史博物館。今回は時間の都合でやむなくパス)。
全館をまともに見たら1日かかっても廻りきれない収蔵品数。それを最長でも2時間で見ようってんだから無理は承知。切るものはバッサリ切り,絵画を中心に的を絞っての鑑賞。以下,思い出すままに羅列(タイトルは英語表記,またリンクは最初の2つを除いて全て美術史博物館オフィシャル)。
ジュゼッペ・アルチンボルド(Giuseppe Arcimboldo)
・『Fire』(www.illumin.co.uk)
・『Water』(www.illumin.co.uk)
・『Summer』
ベルナルド・ベロット(カナレット)(Bernardo Bellotto, called Canaletto)
・『Vienna Viewed from the Belvedere Palace』
・『The Imperial Summer Residence Schonbrunn: Court Facade』
ピーター・ブリューゲル(Pieter Bruegel)
・『The Tower of Babel』
・『Children’s Games』
カラヴァッジオ(Caravaggio)
・『David with the Head of Goliath』
ピーター・パウル・ルーベンス(Peter Paul Rubens)
・『Ildefonso Altar 』
・『The Lamentation』
ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer “van Delft” )
・『The Artists Studio』
そりゃ,ブリューゲルの『バベルの塔』には感動を越えて畏怖の念すら抱いたし,カラヴァッジオの黒は相変わらずの底無しで引き込まれそうに…。しかしそれでも何が一番と問われたら,やっぱりアルチンボルド。これが初めての実物体験,全体図として異形の姿はもちろん,ひとつひとつのパーツの細かい描写力,想像を遙かに越えた深みを持つ色彩…。ほんと,いつまでだって見ていられそう。更に言えば,これらがプラハの宮廷内で描かれていたというのも自分にとって興味を惹くところ。ルドルフ2世,たまらんすね。
大通りを渡ってリング内へ入り,だだっ広い庭園を進むとガラスのドーム建築が見えてくる。その一角が目指す「熱帯蝶類植物園(Schmetterlinghaus)」。
温室特有のあのムワッとした空気の中,眼を凝らすと宙をヒラヒラと舞う蝶がそこかしこに。そこから目線を下に降ろすと,カットされたオレンジやバナナ,または造花につけられた甘味(白い粉だったので普通に砂糖?)にもワラワラと。なかには蛾の群れなんてのもあって,好きな人にはたまらない光景(そして苦手な人にもたまらない)。
にしても,それら用意された甘味が余程美味しいのか,それとも完全に人間慣れしてしているのか,どこまで寄っても逃げるどころか羽ばたきひとつする気配無し。それならばと,デジカメの性能極限までレンズ面を近づけて接写。
十分に蝶と戯れたので,宮殿の建物をグルリと一回りして次の目的地,「地球儀博物館(Globenmuseum)」へ。
入り口のカウンターには学生,もしくは助手といった雰囲気の女性が一人きり。彼女からチケットを買い,奥へ進むと,あるわあるわ。資料によるとその数,380個以上(地球儀の単位は「個」でいいのかどうか?)の地球儀。大きさ・年代・また月球儀や天球儀など地球儀以外のものまで多種多様なものが一堂に。
それらの中で惹かれたのは小さきものの数々。オブジェ感に溢れた地球本体のそのサイズはもちろんだけど,加えてそれを収めるために作られた専用の箱に激しくトキメキ。ただ収めるだけではなく,その裏側には天球が描かれていたりなんかして,そりゃもう大変っすよ。
っつーか,もうその場で想像力の旅へと出発。地球を箱にしまいこみ,それをポケットに入れて街を歩く当時の学者。転んだか何かの拍子で地球が箱から飛び出しコロコロと。学者は追いかけるものの,大きな飴玉だと思った子供が口に含んでは吐き出し,そこに通りかかった馬車に蹴られ,ご婦人が仰ぐ扇で跳ね飛ばされ…,といった具合にエンドレス(オチは無し)。また月球派としては,月でこれを作ってみたいとも思ったり。
ちなみに,ここの開館時間はかなり短いので注意が必要。月~水と金曜が11:00~12:00,木曜は14:00~15:00と各曜日1時間のみ(今日は木曜ということで午後訪問)。また,2005年夏には移転も予定されているそうなので,そちらも加えてご注意。
地球儀博物館を出てそこから前方に数十m進むと,いよいよ最後の目的地,「国立図書館(Osterreichische Nationalbibliothek)」の「大広間(Prunksaal)」。
良くも悪くも威風堂々・豪華絢爛。奥行き80m,高さ20mという大空間,天井のフレスコ画,ホール中央に立つ像,ふんだんに使われた大理石…。もちろんひとつひとつ見ていけば,そのどれもが素晴らしい技巧を施されたものであることはわかるんだけど,スケールが大きい分,どうしても大味に見えてしまう。ストラホフ修道院が小さいながらも(もしくは小さい故に)細部に宿る魂を強く感じられるのとは明らかに異なる印象。しかし一方では,これだけのスケールだからこそ,訪問者は自由にこの空間を歩きまわりその驚くばかりの空間体感ができるわけで。これは入室が禁じられ,扉の外から眺めるだけのストラホフでは決して味わえないもの(ストラホフは足を踏み入れられないことが逆に神秘性に繋がって良いという考え方も出来ることは出来るけど)。
なんてことを考えながらもバシャバシャ写真を撮り続けていると(デジカメが無念のバッテリー切れで銀塩モノクロのみに),梯子階段に登って棚の書籍を整理していた白衣の書士が,何冊かの蔵書を手に梯子階段を下りて歩き始める。何処へ行くのかと眼で追うと,ある棚の前で立ち止まり不意に何かに手をかける。するとその棚が手前へと開き,その向こうに空間が現れたではないですか。近くに寄って中を覗くと,背の低い書棚やテーブルなどが見える。これはやっぱり作業場?。ストラホフも含め,表側の美しさに気を取られて,バックヤードの存在を完全に忘れていたよ。自分にとって,これはかなり重要な経験。
幾つかの取りこぼしはあるものの,とりあえずこれで当初の予定ルートを一回り。ここで時計を見ると,プラハへと戻る鉄道の発車時刻まで1時間あまり。シュテファン大聖堂を再訪してみるか,それとも古本屋巡りをしてみるか…。しかし色々と考えた末の結論は名物料理ポークシュニッツェル。DEMELでザッハとコーヒーを口にしただけで腹減ってんのよ…。オペラ座近くのカジュアルな店,次から次にテイクアウトで訪れる地元の人々を掻き分けて店内でガッツリ。
腹も満たされたところで,トラムに乗ってWien Südbahnhof駅へ。そのままホームへと向かい,既に入線している列車(その名も「スメタナ号」)に乗車。定刻16:34に出発。途中,滞りなくパスポートコントロールも済み,20:55にPraha hl.n.駅到着。やっと戻ってまいりました。
Narrenturmを後にし,キャンパス内を抜けて大通りへと出る門へ。するとそのすぐ隣が次の目的地である「医学史博物館(Josephinum)」。
ここの訪問目的は解剖学用人体蝋標本の鑑賞。この手の展示の代表格と言えば,まずはフィレンツェの「La Specola」が挙げられると思いますが,何のウィーンだって負けてない。と言うか,ここの蝋標本を製作したのは当の「La Specola」の工房。時の神聖ローマ皇帝ヨーゼフ2世(ちなみに昨日のNarrenturmを設立したのもこの人)が「La Specola」の蝋標本に感銘を受け,同じようなものをウィーンにも欲しいということでオーダーしたとか。しかも収蔵数で言ったらこっちのほうが多いってんだから,そりゃ胸の期待も高まるってもんです。
その他,より詳しいことは以下の書籍をご覧いただければ。
・『世界珍紀行』 都築響一
・『Anatomie als Kunst』 Manfred Skopec, Helmut Groger, Alexander Koller
博物館への入り口は左右に棟が広がる建物の右翼側。そこから階段を登ると,まずは施設名の通り,医学史に関する展示から。各年代の医療機器,世界で初めて切除・摘出された胃等々。
一回りしたら階段の踊り場を挟んで向かい側へ。開けようとしたその扉には「Wax Models」の文字。いよいよのご対面。
入るといきなり仰向けに横たわる開腹された女性の裸身。頭髪は人の本物を植毛,首には真珠の首飾り(こちらはイミテーションっぽい)。部屋を見渡すと壁に沿って人体の各部位毎に詳細な標本がびっしり(ちなみに解剖学用なので,全て実物大で製作されています)。標本それ自体はもちろん見応え十二分なんだけど,更にそれらが収められている飴色の木枠にガラスがはめ込まれたケースも美しい。また壁沿いの標本は全て,鑑賞しやすいように斜め上を向いた形。
次の部屋へと移動すると,今度は皮膚が剥ぎ取られ筋組織の上に血管が縦横無尽に巡っている男性の全身像。でも,なんかポージングが不自然。横向きで片肘をつき,もう片方の腕は上げられ,そして視線は空を見つめている(後で調べたら,当時それと同じ解剖画があったらしい)。しかもその標本の真ん前にはポツンと一脚の椅子が。これはやっぱり座れってことだよなということで,しばし腰を下ろして対話。お前も皮一枚剥げばこんな格好してんだぜ。っつーか,俺がお前でお前が俺なんだよと言われているような…。
最も奥の部屋にはレイヤーのように内部組織の剥ぎ具合が異なる6体の男性全身モデル。何に驚いたって睾丸と体幹との接合位置。腰骨の最上部辺りからぶら下がってんのね。
結局,全部で6室。そりゃもう言うことなし。1日中,ここと「Narrentrum」を行ったり来たりしていたい…。
ムービーも見つけたので,この手のものに耐性のある方はどうぞ。
・「Vienna : Josephinum, anatomical wax figures」
博物館を後にしてリング内へ,そこから更に中心街へと歩を進める。ここで時計を見るともうすぐ昼,濃密な午前を過ごしたのでここらでひとまず休憩。そこで向かったのはベタにDEMEL。当たり前だけど原宿店とは比べ物にならない威厳漂う店内。気圧されて正直,落ち着かねぇ…。奥のカフェ,若干うつむき加減でザッハトルテをコーヒーで流し込む。
それでもなんとか店内を見回すと,店頭販売している各種商品のパッケージデザインに視線を奪われる。幾つかの有名どころ(猫ベロとか兎とか)を除けばそのほとんどが初めて眼にしたもので,そのどれもがいちいち素晴らしい。なかでもオリエンタルテイストのモノにグッときて,中身は全く意に介さずただ箱が欲しいというだけで幾つか購入。画像は竹を模したバンブーチョコ。
パッケージを眺めすぎて気がつきゃ結構いい時間。ということで次の目的地「シュテファン大聖堂(Stepahnsdom)」へ。目指すはその地下。ハプスブルグ家歴代皇帝の内臓(心臓だけは別の場所に安置)を納めた壺,そしてコストニツェ同様,ペストによって命を失った人々の骨々がこれでもかと置かれているらしい。が,中に入るとちょうどミサの時間。詰め甘っ…。異教徒の身では当然立ち去るしか術は無く,残念ながら今回の旅では謁見すること叶わず。
気を取り直して次,アドルフ・クリシャニッツ(Adolf Krischanitz)の中央郵便本局。アーチ型の列柱が並ぶ壁沿いに備え付けられたカウンターが美しい…。はずが,その姿はどこへやら,レイアウトが変更されていて壁沿いのカウンターは閉鎖され,その内側のオープンスペースに新しいカウンターが無造作に並べられている。改修などによる何らかの臨時的措置なのか,それとも恒常的にこの平面プランになってしまったのか,往時の面影全く無しでガッカリ…。
更に悪いことは続く。よほど落胆したのか,すぐ近くに建つ次の訪問予定地,オットー・ヴァーグナー(Otto Wagner)の中央郵便貯金局(Postsparkasse)を素通り。いやほんと,完全に忘れてた…。
次なる目的地へ向かうためトラムに乗車。ぼんやりと外を眺めていると,露出度の高いコスチュームで銃を構えるブロンドの女性のポスターがやたら貼られていることに気が付く。十数分後,下車した停留所にもあったのでよく見ると,そこには『Barbarella』の文字。この姿でこのタイトル,何,いつの間にドリュー・バリモアのリメイク版が完成したのよと思って更に見入ると,これがウィーンで上演中のミュージカル。んー,確かにあの破天荒なストーリーはミュージカルに適していそうな気がしなくも。しかもクレジットの音楽監督にはDave Stewart(ex.Eurythmics)なんて名前も(本当はDuranDuranにお願いしたいところだけど),話のタネとして見ない手はない。でもやっぱり時間がない。あぁ,もう1泊できたら…。
チェコが祝日ということで,ウィーンへと足を伸ばすことにしたのは前日に書いた通り。でも,数多ある近隣諸国の都市の中で何故にウィーンなのか?。
ひとつは世界で最も美しいと言われる図書館の存在。昨日訪れたプラハのストラホフ修道院と比較する意味でも絶対に見ておかねばならぬ。
そしてもうひとつのきっかけは二冊の本。都築響一『珍世界紀行』とゲルハルト・ロート(Gerhard Roth)『ウィーンの内部への旅』(『Eine Reise in das Innere von Wien』)。正直,全く関心外の都市だったので,クラシックやオペラなどという書いてて恥ずかしくなるイメージしか抱いていなかったウィーン。しかしその懐には底知れぬ暗部(と同時に笑いも少々)を抱いていることを教えてもらいました。
7:30にはホテルをチェックアウト,トラムに乗ってまずは「病理・解剖学博物館(Narrenturm)」へ。ウィーン大学構内にあるこの博物館は,バームクーヘンのように内部をくりぬいた円柱形の建物で,元は精神異常者を収容する療養所。誰が呼んだか,その通称「愚者の塔」(訳し方は色々あるだろうけど,「Narrenturm」というドイツ語がそもそもそういう意味)。
中に入るとそこはかとなく甘い香り。これはやっぱり標本を浸したホルマリン?。期待と不安が入り混ぜになりながら歩を進めると出てくる出てくる。香りの元である各種器官の納まった硝子瓶,古い医療器具(牛若丸『funktion』を思い出す),極端なまでにせむしな骨格標本,各種性病にかかった男女性器の模型(梅毒で鼻がもげた顔の模型含む)…。更にはそんな看板に偽り無しな展示に混じって,この建物の図面を用いたコラージュやドローイング,そしてなぜか錬金術師のヴンダーカマーなんてものも(確かに「病理・解剖学」のルーツとして辿れないこともないんだろうけど…。それにしてはあまりにも唐突)。
しかし最も目を惹かれたのは水頭症で頭部が異常に肥大した子供の骨格標本。常識では考えられないその大きさに驚いたのはもちろんだけど,それ以上にそんなアンバランスなプロポーションで,見る者にある種の恐れを抱かせる姿でありながらも可愛ささえ感じさせる全体のポージングがツボにはまる(画像は後に記す絵葉書から)。なんで右足のつま先を上げてんのよ?。っつーか,それ,狙ってやってるでしょ?。
そうやって幾つかの小部屋を巡回している内に,突然自分の現在地がわからなくなる…。冷静に建物の平面図を思い浮かべると,バームクーヘンの内周に沿って回廊があり,そこから外周に向かって放射状に幾つも小部屋がある。つまり回廊から小部屋,そこを出て回廊を進み隣の小部屋という反復運動を繰り返した結果の方向感覚喪失。この展示物にこの建築の構造は完璧。ヘタするとバベルの塔のように回廊がスロープになっていて,このまま永遠に登り続けて展示が終わらないような悪夢まで見てしまいそう。
しかし現実は一周したら無事入り口に戻って一安心。それでも疲労感(もちろん満足感も計り知れないけど)は拭えず,バームクーヘンの内部である中庭へ出て一休み。と思ったものの,そこがまた目を見張る空間。剥げ落ちた壁,鉄格子のはまった窓,鉄の扉,そして切り取られた空…。かつてここで生活をおくっていた方々がこの空を見て何を思ったのか?。そんなことにふと想いを馳せる…。
気がつけば2時間近くも滞在。次の予定も詰まっているので最後のミュージアムショップ(と言っても非常に小さいもの)へ。パンフレット,例の頭部肥大のお子様骨格標本の絵葉書,そして頭蓋骨がプリントされたマッチなどを購入。レジを打つのは白衣姿の好々爺。もしかしたら立派な教授様なのかも…。
ちなみにここの開館時間はかなり変則的で,水曜15~18時,木曜8~11時,そして毎月第一土曜の10~13時のみ。今日は木曜,ということで朝イチでいきなり訪れたというわけでした。訪問を計画される際は御注意を。