東京大学総合研究博物館で「プロパガンダ1904-1945 新聞紙・新聞誌・新聞史」。
今では少なくなったかもしれないけれど,かつて新聞紙は何かを包んで保存するために使用されることの多かったもの。つまり大事なのは包まれた側。しかしその包み紙としての新聞紙の方に視点を移せば,実は当時の状況を伝える非常に史料性の高いものだった。かつてマーク・ダイオンの「Microcosmographia」展で使われた手法に似た今回の展示。学内の様々な標本を包むために使われていた新聞紙の姿,またそこに書かれている当時の出来事…。一見無用なものが実は価値があるという主客の転倒が非常に興味深いです。
一方でもちろん最初から新聞として保存され歴史的出来事を伝えているものも世の東西を問わず数多く展示。なかでも眼を惹いたのは海外の言葉の和訳語。飛行船ツェッペリン号が「Z伯號」と書かれていたのには格好良すぎて異常な興奮を覚えました。他にもその時々の商品・雑誌広告のキャッチコピーやレイアウトデザイン,映画・演劇上映スケジュールなど,文化・生活分野からも非常に見応えあり。気がつけば1時間くらい見入ってたんだけど全然時間が足りない。また行かなくちゃ。
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空海と高野山展
東京国立博物館で「空海と高野山展」。
いくつか心に残ったものを。
・「諸尊仏龕」(国宝・高野山三大秘宝 金剛峯寺)
モバイル仏さん。円筒を二分割,その半分を更に二分割,計三分割されたその
内側に釈迦如来・菩薩がぎっしり。こういう細かい技巧ものにはとにかく弱い
んです。
・「深沙大将立像」(金剛峯寺)
左腕には蛇が巻き付き,首には七個の髑髏を掛け,腹部には童子の顔が現れ,
両膝頭には象頭が。
・「孔雀明王像」(重文 金剛峯寺)
サイケデケリックと言っていいのか,とにかくヤバいっす。
あと,胎蔵界曼荼羅・金剛界曼荼羅はそれぞれ「womb world」「diamond world」と言うのね。どちらもそのまんまの訳なんだけど,胎蔵界のほうがより自然に納得できる。逆に金剛石=ダイヤモンドというリンクが自分の中ではまだどうにもしっくり馴染まないんだよなぁ。
東京都現代美術館で「球体関節人形展」。三浦悦子によるバイオリンとなった自らの体を爪弾く人形,そしてマリオ・Aの生身の人間を人形に見立てた写真が印象に残る。
一方で首を傾げたのは,機械・電子的物質と融合されたいくつかの作品。引き裂かれた人形の胸や腕から顔を覗かせるジャンパー,機械とハイブリッド化された人形の背後にはめ込まれた基盤…。宿主である人形に対する異常なまでの想像(創造)力の発露に驚かされる一方でのあまりの安っぽさ。だったら外見からメカメカしているほうがまだ説得力があるというか,皮膚の内側への想像力ってまだ拡大する余地があるんだな。と,生身の人間に近い皮膚感覚の人形よりもミクロマンのようなわかりやすい機械(電子)人間を愛する者としては思うのでした。
かっぱぱぁ るっぱぱぁ
上野の森美術館で「小島功画業60周年記念展」。
私にとっては「黄桜」の河童よりも『ヒゲとボイン』の作者として敬愛して止まない方(かつてビッグコミックオリジナルを愛読していたので)。「100人の美女」というサブタイトル(もっと長かったかもしれないけど忘れた)通り,メインはキャンバスに描かれた数々の美人画(なかには「風神雷神」(もちろん裸体)なんてのも)。
それ以外では雑誌・新聞連載の漫画(『ヒゲとボイン』はここ),そしてもちろん「黄桜」の河童達なども。その中でも特に気になったのはイラストが用いられた各種製品・商品の展示。そこでピチカート・ファイブ『PIZZICATO FIVE REMIXES 2000』を発見。ジャケイラストに小島氏を起用するとは,さすがと言うかそつがないと言うか(っつーか,小西康陽は似すぎです)。
そういえば『ヒゲとボイン』の単行本って見たことないなと思ってたら,なぜかエンターブレインから出版予定。小学館との関係はどうなってんのだろう?。
今シーズン初の雪を浴びながら,庭園美術館へ。「アール・デコ様式 -朝香宮がみたパリ-」を鑑賞。
アール・デコ様式の数々の作品群はそれなりに想像の範囲内のものだったのでざっくりと眼を通す程度にし,1925年にパリで開催された「現代装飾美術・産業美術国際博覧会(アール・デコ博)」のパンフレットや会場地図,各パビリオンの造形などを注力して鑑賞(幾つになっても博覧会モノに弱い体質を拭い切れず…)。
しかし最大の収穫は,展示テーマとは全く関係ない特別展示品。根付に通じる小さきモノに宿る精緻の技巧。そしてそこに込められた意味。あぁ欲しい…。
ガスト・ノッチな気分で行こう!
言うまでもなく展覧会というものは,そこに展示されているモノに少なからず好意や関心を持つ人が足を運ぶイベントでありますが,それ故に展示物を眺めること以上にそこに集う人々の反応を観察しているほうが刺激的なことだったりすることも個人的に多々ありまして。で,今回がまさにその極致。会場全体を周回するように並べられたガラスケースの中に全ファミコンソフトが鎮座していた訳ですが,来場者全員と言っていいでしょう,もう皆,語る語る。しかもその内容がイチイチおもしろく,且つ熱いもんだから,それらに聞き耳立ててるだけで楽しくて仕方なし。
「俺,16連射できたんだよ」(『スターフォース』)と今は柔らかい親指の腹を見せて自慢する人(昔,ギターやってたことを自慢するオッサン?),「昔,高橋名人っていうゲームのめっちゃ上手い人がいたんだよ!!」(『高橋名人の冒険島』)と高橋名人を知らない連れの友達に力説する女性,「あぁ俺,ミポリンに電話したことある…」(『中山美穂のトキメキハイスクール』)と己の恥部を彼女に吐露する彼氏,「このゲーム,友達の○○に貸したまま返してもらってねぇよ」と21世紀になって友情に亀裂が走りそうになっている若者…。ほんと,会場で話される会話をすべて録音して後世に伝えたいよ。
ネンドのTシャツを着たオシャレゲーマー(男性複数グループ多し)も,何も知らない彼女や奥さんを無理矢理誘ってやってきた元ゲーマーのお父さんも,体から香ばしい匂いを発してフリープレイのゲームに興じる現役ヲタも(さすがにその後にコントローラーを持ちたくはなかった…),少ないながらも熱いトークを聴かせてくれた女性だけのグループも,ほんと,あんたら最高。
しかし,ただひとつお話にならなかったのが会場で販売されている図録。この尋常ならざる写真の酷さは何?。全体に暗いだけならまだしも(いや,ほんとバカみたいに暗いんだけどね)色相まで狂っているものも…。印刷ミスを掴まされたのかと思ったけれど,何冊か見たところでみんな同じ。各々のソフトの保存状態(日焼けや経年変化による色褪せもそりゃあるでしょう)を考慮に入れたとしても資料としては全く使えねぇ。この展覧会のアートディレクターであり,且つそれらの写真の撮影者として奥付に記されているSaruBRUNEIの人は,一体どうしてしまわれたのでしょうか?。
気を取り直して。
帰宅後,iTunesを立ち上げて聴いてしまったのは,やっぱり細野晴臣『Super Xevious』。こちらは全くもって色褪せません。
Variety Shows
次から次に各種イベントをはしご。
まずは原宿でThe Peter Saville Show(『Koyanisqqatsi』でアンケートを提出したら招待券をくれた。ありがとうA新聞(こんな時だけ))。普通に格好良いところはいいとして,Wham!『Last Christmas』を手がけていたことにとにかく驚く。
そのまま渋谷に流れて,たばこと塩の博物館にて『大見世物展』。ちょうど開館記念日ということで半額で入場(ありがたや)。期待していた”The Freak Show in Japan”な要素はほとんどといっていいほど無かったものの,各種出し物を描いた数々の絵図に見入る。また立体物も充実で,干物で出来た神棚やら,江ノ島の土産物屋でよく見かける貝殻で作られた飾り物やら,頭部を箪笥で作った獅子舞やら,驚くべき想像力の世界。『ディスコミュニケーション』の世界をちょっとだけ現実に見たような。
駅に向かう道すがら,シネマライズ横で開かれていた杉浦茂展にも偶然遭遇。こういうのに腹を立てる自分にも腹が立つくらい,無意味なコラボレーション(有名どころの方々が描いたタペストリーがダラリとぶら下がってる)に辟易。『キャシャーン』や『デビルマン』などを実写映画化する昨今流行の過去を無駄に食い潰した表現行為に感じたものと同じ嫌悪感がドス黒く腹の中に充満。更にはやる気の無い店員(皆,カウンターの中でうつむいて氏の漫画を読みふけってる)の姿も相まって,お前らに杉浦茂への愛はあるのか,今これをやって一体誰が得してんだよと小一時間(言うまでもなく以下略)。
怒りを鎮めつつ半蔵門線で神保町へ。毎年恒例の古本まつり。最終日に行ったところでハイエナ共に荒らされた跡しか見られないのはわかっていたこと。しかし今回はそれに加え空からは無情の雨が落ち,屋外の出店はほとんどが店じまい。こんなに寂しい気持ちになった古本まつり,初めて。
そんな閑散とした景色のなか,某所で『アートジャパネスク』全18巻発見。おぉ,市場で見かけたの5年ぶりだよ。でも50,000円という価格はちょっとなぁ(1冊3,000円しないと考えれば法外でもないのかもと思いつつ…)。ということで,保存用にもう1セット欲しいところではあるんだけどスルー。何も買わなかった古本まつりも初めてということに。
Ondes oniriques
最終日にようやく中川幸夫『誘いの夢…』を見に,ガラスブロックで覆われた銀座エルメス(こんなことでもないと絶対に入らない場所)へ。頭の中が全てそれで満たされんばかりに立ち込めるラベンダーの香り(パンフレットによるとその量は700kg)に激しい眩暈。
地中海をテーマにした展示,だからこそ,そこに自生する花であるラベンダーが敷き詰められているにもかかわらず,わずかに残された頭の片隅に浮かんだのは,やはり尾道の女子高生…。